健康のために、野菜や発酵食品を意識する人は増えました。
でも、その働きを支えるかもしれない「口の中の環境」まで意識している人は、まだ多くないかもしれません。
近年、植物由来中心の食事が健康長寿に関わることは、広く知られるようになってきました。一方で、口の中の細菌は、虫歯や歯周病の原因として語られることが多く、全身の健康とのつながりは、まだあまり一般的ではありません。
今回の対談では、健康長寿地域として知られる京丹後でコホート研究※を続ける内藤教授と、口腔内細菌と一酸化窒素(NO)を研究するDr. Greenに、食事と健康長寿、そして口の中の環境がどうつながっているのかを聞きました。
日々の食事を見直している人にとっても、「食べること」と「口の中の環境」は、別々ではないかもしれない。
そんな新しい視点のヒントになれば幸いです。
※日本でもトップクラスの長寿地域(京丹後)の高齢者を対象に、体・食事・腸内環境を包括的に調査し、健康長寿の理由を解明するための研究。
【対談者】
内藤 裕二先生(京都府立医科大学大学院医学研究科 生体免疫栄養学講座 教授)
Dr. Shawn J. Green Ph.D MBA (Founder & CEO MyFitStrip LLC)
健康長寿の人は、何を食べているのか?
~京丹後研究から見えてきたこと~

内藤先生
私たちは京丹後地域でコホート研究を進めています。京丹後の人々は、日本の伝統的な食事を多くとっており、百寿者が多い地域としても知られています。
そうした背景から、健康長寿の要因を明らかにするために、食事や腸内細菌叢を解析しています。その中で、酪酸を産生する腸内細菌が特に中高年の健康に関与している可能性が示唆されています。
また、その菌の多さは、食物繊維、特に野菜由来の摂取と強く関連しています。
さらに、長期間のコホート研究でも、植物由来中心の食事が健康長寿に重要であることが示されており、私たちの研究とも非常に近い結果になっています。
MPA WELLNESS スタッフ
つまり、京丹後で見えてきたのは、特別な健康法というより、野菜や食物繊維をしっかりとる植物由来中心の食事が土台になっている、ということですね。この傾向は、日本だけの話なのでしょうか。それとも海外でも共通して見られるのでしょうか?
Dr. Green
はい。世界的に見ても、健康長寿に関連する食事には共通点があります。
地中海食、日本の伝統的な食事などが挙げられますが、いずれも共通しているのは、食物繊維が豊富であるという点です。食文化そのものは違っても、植物由来のものをしっかりとることが体にとって大事だという点は、かなり共通しているように見えます。
京丹後で見えてきたことは、地域特有の話というより、より普遍的な健康長寿のヒントとして捉えられそうですね。

MPA WELLNESS スタッフ
日々の食事としては、まず何を意識するとよいのでしょうか?
内藤先生
特別なことをするというより、植物由来のものを無理なく日常に取り入れていくことだと思います。 野菜や食物繊維を、毎日の食事の中で自然に増やしていくことが大切です。
また、京丹後は東京と比較して、生物学的な年齢も若い人が多い傾向があります。
それは、血液中の炎症状態とも関連していると考えています。
ただし、私たちの研究はまだ道半ばです。
また、口腔内細菌叢については、まだ十分に解析できていない点が今後の課題です。
■ここまでのポイント
・京丹後の研究では、植物由来中心の食事が健康長寿と関わる可能性が見えてきている
・特に、野菜や食物繊維を日常的にとることが重要な手がかりになっている
・特別な健康法より、日々の食事の積み重ねが大切
MPA WELLNESS スタッフ
ここまでの話を聞くと、口の中の菌は「とにかく減らすもの」と考えてしまってよいのか、という疑問も出てきます。日本では、口の中の菌は“なるべく減らした方がいいもの”と受け取られがちですが、この考え方はどう見直すべきなのでしょうか?
Dr. Green
口の中の細菌バランスは、外界に接している分、非常に崩れやすいものです。
例えば、抗菌性のマウスウォッシュを頻繁に使用すると、口の中の細菌バランスが崩れる可能性があります。口の中には700種類以上の細菌が存在し、その中には有益な働きをする菌も含まれています。強い殺菌作用は、そうした重要な菌も同時に減らしてしまう可能性があります。
また、最近の日本の研究でも、高齢でも健康を保ち続ける人は、野菜の成分をうまく働きに変える菌が多く、整った口の中の環境を保っているという報告があります。
つまり、全部をなくそうとするより、乱れにくい環境を保つという考え方の方が大切だと思います。
内藤先生
たしかに日本では、口の中の細菌は悪影響として語られることが多いですね。
特に歯周病菌がそのイメージを持たせていると思います。
一方で、有益な作用もあるという点は非常に興味深いですし、腸内環境と同様に“バランス”が重要であるという点は共通しています。
ただ、日本ではまだ、口の中の細菌を“健康の土台”として捉える考え方は一般的ではありません。
そのまま説明すると難しく、伝え方が重要になると思います。
Dr. Green
アメリカでも同様に、まだメジャーとはいえません。
重要なのはメカニズムそのものではなく、“結果として何が起こるか”だと思います。
血流や日々の快適さ、歯ぐきの健康維持といった形で伝えることで、理解されやすくなります。
MPA WELLNESS スタッフ
清潔に保つことは大切だけれど、強く減らすことだけが正解とは限らない。口の中の環境を整える視点も必要だということですね。ちなみに、NOはどの程度で変化が見られるのでしょうか。
Dr. Green
比較的短時間で体の変化につながる可能性があるとされています。
また、NOは食事だけでなく運動によっても増加すると考えられています。特にランニングやサイクリングなどは有効です。
内藤先生
そうすると、食事だけでなく、運動もこの流れに関わってくるわけですね。
京丹後の研究でも、植物由来中心の食事が健康に寄与していますが、そこに口腔内細菌も関与している可能性がありますね。
Dr. Green
はい。だからこそ、これからは食事・運動・腸だけでなく、口の中の環境も含めて考えることが大切になってくると思います。
■ここまでのポイント
・口の中の菌は、ただ減らせばよいものではない
・大切なのは、強く除菌することより、乱れにくい環境を保つこと
・口の中の環境も、日々の快適さや健康の土台のひとつとして考える視点が重要
腸だけでなく、口の中も整える
~これからの健康習慣のヒント~
健康のために食事を意識する人は増えました。
でも、その働きを支える「口の中の環境」まで意識している人は、まだ多くないかもしれません。
今回の対談は、腸活や食事の見直しをさらに深め、健康をもう一段広い視点で考えるきっかけをくれるものでした。植物由来中心の食事を意識すること。そのうえで、口の中の環境も“除菌”だけでなく“バランス”で考えてみること。
腸だけでなく、口の中も整える。
この視点が、これからの健康習慣のヒントになるかもしれません。