今回は開発者のGreen先生の論文をご紹介します。
一酸化窒素(NO)は、血管の柔軟性、血圧調整、免疫応答など健康維持に不可欠な分子ですが、加齢や生活習慣の影響で体内での生成能力が低下します。特に、NOS(ナイトリックオキサイドシンターゼ)経路の機能低下が慢性疾患のリスク増加に関与すると考えられています。その代替経路として重要なのが、「硝酸塩(nitrate)→亜硝酸塩(nitrite)→一酸化窒素(NO)」という enterosalivary(腸唾液)ループです。食物由来の硝酸塩を摂取し、その一部が唾液に濃縮されて口腔内細菌により変換され、再び体内でNOに変わるという経路です。(Nature)
論文では、「口腔内での滞留時間(“hang-time”)」を延ばした硝酸塩含有プレバイオティックガムが、口腔および全身の血管機能にどのような影響を与える可能性があるかを検証しています。具体的には、唾液中の硝酸塩濃度を高めることで、口腔内の微生物叢(マイクロバイオーム)が健康バランスに変化し、NO産生に寄与する善玉の細菌が増えるという in vitroデータがあります。(Nature)
さらに、硝酸塩を含む咀嚼型ガムやタブレット(サプリメント)など、製品が口の中にとどまる時間を延長する方法が有効であるとされています。これにより、通常の飲料や食事で硝酸塩を摂るだけの場合よりも、口腔内での硝酸塩還元や亜硝酸塩産生が持続しやすくなり、血管内皮(endothelial)機能を改善する可能性が高まるという仮説が提起されています。(Nature)
また、この「ハングタイム」の延長は、特に次のような人々にとって有益と述べられています:
- 唾液量が少なく、唾液を通じた硝酸塩の濃縮が不十分な “ドライマウス” の方
- 心血管疾患や代謝異常があり、食事での硝酸塩摂取が十分でない方
- 口腔内細菌叢のバランス(ディスバイオーシス)が崩れており、一酸化窒素の利用能(bioavailability)が低い方などです。(Nature)
ただし、論文はあくまで予備的・探索的な証拠を中心にしており、「ハングタイムを延ばした製品」が実際にどれだけの量とどのくらいの期間、どのような方法で使われるべきか、また安全性(高濃度硝酸塩による副作用など)については追加研究が必要、という点が強調されています。(Nature)
これらの報告から考えられる実用的なヒント:
- 食事で摂る緑葉野菜などの硝酸塩含有食品を積極的に取り入れること。さらに、口腔内細菌を殺し過ぎない(抗菌マウスウォッシュを頻繁に使わないなど)。
- 唾液量や口腔乾燥がある人では、特に“滞留時間”を意識した方法を検討
- 毎日の口腔ケアやサプリメント、食品だけでなく、口の中に留まる形状(ガム、タブレットなど)の製品を使うことで、より実感を得られる可能性
このように、「口腔内での硝酸塩の“ハングタイム”を延ばすこと」が、将来的には口腔と全身の血管健康を支える新しいアプローチになりうるのです。
引用:https://www.nature.com/articles/s41522-024-00527-3