2025年8月、花王株式会社は、口腔内の細菌バランス(口腔内フローラ)に関する最新の研究結果を発表しました。
本研究は、歯周病の有無や年齢によって口腔内の菌構成がどのように変化するかを解析し、「硝酸還元菌」と呼ばれる菌の存在が、健康な歯ぐきを保つうえで重要な指標となる可能性を示したものです。
(出典:花王株式会社ニュースリリース/2025年8月29日)
■ 研究の概要
研究では、20〜79歳の男女163名を対象に、歯肉の炎症や歯垢の状態を調査し、口腔内に存在する細菌をDNAレベルで解析しました。
その結果、健常な歯肉を持つ人と軽度の歯周病を有する人では、細菌構成に明確な差があることが確認されました。
特に、**Neisseria属などの「硝酸還元菌」**と呼ばれる菌の比率が、健常者で高く、軽度歯周病の被験者では低い傾向が見られたといいます。
さらに興味深い点として、年齢を重ねても健康な口腔状態を維持している人ほど、この硝酸還元菌の比率が高いという結果も報告されました。
■ 「硝酸還元菌」とは何か
硝酸還元菌は、ビーツなどに含まれる「硝酸塩」を代謝し、体内で一酸化窒素(NO)を生成する能力を持つ菌です。
この一酸化窒素(NO)は、血流や免疫、抗菌防御などに関わる生理活性物質であり、全身の健康維持に寄与すると考えられています。
今回の研究は、口腔内にもこうした硝酸還元菌が存在し、そのバランスが健康な歯ぐきや口腔環境の維持に関与している可能性を示唆しています。
一方で、歯周病が進行すると、酸素を嫌う細菌(嫌気性菌)が増え、硝酸還元菌のような「酸素を好む菌」が減少し、口腔内のバランスが崩れる傾向も明らかになりました。
■ 研究が示す新しいオーラルケアの方向性
この結果から見えてくるのは、「除菌」から「バランスを整える」へという、オーラルケアの考え方の転換です。
これまでのように一方的に除菌するのではなく、良い菌が育ちやすい環境を整えることが、健康な口腔フローラ維持の鍵になるかもしれません。
今後、硝酸還元菌をはじめとした善玉菌を活かすケアが進化することで、年齢を重ねても健康的な口腔環境を維持する新たなアプローチが生まれる可能性があります。
■ まとめ
花王の研究は、口腔内に存在する硝酸還元菌の比率が、歯周病や加齢と密接に関連することを明らかにしました。
この成果は、オーラルケアにおける“微生物バランス”の重要性を再認識させるものであり、今後の研究の進展が期待されています。
“菌を敵にする”のではなく、“共に生きる”。
そうした新しい発想が、これからの口腔ケアを変えていくのかもしれません。
参考:花王株式会社 ニュースリリース「加齢および歯周病の有無による口腔フローラ変化に関する研究結果」(2025年8月29日発表)